隣の席の人
きのうのコンサートは、コロナ対策で定員30名。
私はハープを聴く時は早目に行き、
指の動きを見たいから最前列右側に席を取る。
15分前になると少しずつお客さんが集まり、
私の右側のイスに座った初老の女性に見覚えがあった。
「こんにちは。先月、あるとぴのさんのコンサートで
シャンソンを歌って下さった方ですよね?」
「はい、1曲だけですけど。席はここがいいのかしら?」
ええ、特等席ですよと返事をすると、開演まで話が続いた。
休憩時間には、前半の感想。
「♪~黒い瞳は、ヴァイオリンの低音が響いたわねぇ。
ロシア民謡だったこと、初めて知りましたよ」
アンコールが終わってからも、
「♪~いのちの歌、良かったですね。私、泣きそうです」
「きょうは本当に素敵なコンサートでしたね」
そして最後に、
「あなたとおしゃべりができて楽しかったわ」
「こちらこそ。加藤登紀子さんに似ていらっしゃるので
すぐに分かりました」
「ありがとう。じゃ、またどこかでお会いしましょう」
一人暮らしで
普段はしゃべる相手もいない私だからこそ、
つい自分の方から声を掛けてみたくなってしまう。
お互いの名前も知らないのに、
そこで生まれる時間の、なんて豊かで温かいこと。
一期一会。
小布施で会ったあの美しい人は、
次の日の魁夷館を楽しんでくれただろうか。
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